点在する“宝”をつなぎ合わせ、山口から生まれる「最高の一皿」

山口県山口市佐山。穏やかな空気を纏う里山の風景の中に、ガストロノミーレストラン「mitsuwa」は佇んでいます。

リッツカールトン大阪を経て、フランスやアメリカの星付きレストランで研鑽を積んだオーナーシェフ・三和慎吾さんと、パートナーである靖子さんは、この山口の地で土を耕し、多種多様な生命を受け取り、地域とのつながりを丁寧に築き上げてきました。

世界基準の確かな実力を持ちながらも、「最高の一皿」をつくるために選んだのは、この佐山の地ーー。

二人が目指す、最高の一皿への挑戦、そして哲学を聞きました。

素材と「共鳴」する瞬間を探し続けている

慎吾さんが料理に向き合うとき、その関心は「美味しいものを作る」という結果以上に、そこへ至るプロセスの中で自身の感覚が素材と「共鳴」する瞬間に向けられています。

「畑で瑞々しい野菜に触れ、頭の中で描いたデザインと組み合わせていきます。自分の感覚と素材のポテンシャルがバチっとはまる瞬間があって。その瞬間の気持ちよさは、何物にも代えがたいですね」(慎吾さん)

唯一無二の「正解」を掴み取るために、慎吾さんは100種類もの野菜を育てるなど、素材にも強いこだわりを持っています。自分の手で育てた野菜たちと対話しながら、自身の感性と掛け合わせていく。その飽くなき探求心こそが、mitsuwaの皿に圧倒的な独創性を与えています。

「僕にとっての料理は、純粋な喜びの積み重ねなんです」(慎吾さん)

山口という土地に点在する「宝」を、自らの手でつなぎ合わせる

慎吾さんがこの地を選び、この地で表現を続ける理由は、山口の食材が持つ圧倒的なポテンシャルにあります。肉、魚、野菜ーー。そのすべてが極めて高いレベルで揃うこの場所を、三和さんは「食材の宝庫」だと語ります。

「山口の食材は、本当に素晴らしい。ただ、一箇所に集まっているのではなく、各地に点在しているんです。唐戸市場をはじめ、日本海や瀬戸内に面しているので多くの魚介類が出回ります。また、野菜も多品種育てる事ができる温暖な環境です。年間を通してこれほどフレッシュな野菜が手に入り、豊かな海と山の幸が共存している場所は、全国を探してもそうありません。ここは僕たち料理人から見れば、最高の表現ができる舞台なんです」(慎吾さん)

かつては「ここでフランス料理店を開いてもすぐに潰れる」と言われたこともありました。しかし、慎吾さんはそうした声を跳ね除け、まずは地域おこし協力隊として関わり始めることに。一軒ずつ生産者を訪ね、泥臭くつながりを築き、自ら農園を育んできました。点在する山口の宝を、自らのフィールドへと手繰り寄せ、一皿に凝縮する。それがmitsuwaのスタイルです。

料理人にも「生命力」が欠かせない

慎吾さんの繊細なひらめきを支えているのは、パートナーである靖子さんです。ホテルオークラ神戸などでの勤務を経て、現在、自家製パンづくりやサーブを担いながら、mitsuwaの空気やブランドそのものを形づくる存在でもあります。

「生育環境から見届けた食材は、人を健康にするエネルギーを持つ」と語り、慎吾さんとともに野菜を育て、ときには自ら山に入り鹿を狩る生活を送っています。靖子さんは、料理人自身にもまた「生命力」が欠かせないと言います。

「都会で働いていた頃は、心身をすり減らした時期もありました。でも、作り手である私たちが生命力に満ちていなければ、食べた人を元気にできる料理は生まれません。だからこそ今は、自分たちが健康で、野性的に、そしてしなやかに生きることを何より大切にしています」(靖子さん)

靖子さんの「生きる姿勢」そのものが、レストランの背骨となっています。

「ふぐ」という伝統への挑戦

mitsuwaのウェブサイトには、こんな言葉が綴られています。

 「自然の一部として、その瞬間の恵みを尊び、身体の奥深くへと届ける」

 その思想に触れることができるのが、山口の冬の象徴である魚「ふぐ」へのアプローチです。刺身(てっさ)、鍋(てっちり)、唐揚げといった伝統料理の踏襲ではなく、ふぐという食材を現代のガストロノミーとして「再構築」する挑戦を続けています。

「ふぐを46度という緻密な温度で火入れし、自ら育んだカリフラワーと合わせています。これは単なる伝統からの脱却とか、自己流アレンジではなく、ふぐという素材が持つ真のポテンシャルをどう引き出すかという再構築のプロセスです。お客様も、ここでしか味わえない独自の表現を求めてくださっていると感じます」(慎吾さん)

慎吾さんの「この質感、この火入れこそが気持ちいい」という経験と確信。そこに靖子さんの哲学が重なります。

「お客様から『体調が良くなった』と連絡をいただくことがあるのですが、その言葉は私たちにとって最大の喜びですね。提供しているのは、単なる食事ではなく、この土地のエネルギーそのものですから」(靖子さん)

46℃で火入れされたふぐ。伝統を塗り替え、食べる人の活力を呼び覚ます、再構築された一皿です。

地方というキャンバスを、自らの手で「おもしろく」する

二人の挑戦は、自らの表現を磨くだけに留まりません。自分たちの手で農園を育み、山口という広大なフィールドで食材と対峙し続けてきた実践的なノウハウを、今度は次世代の料理人たちへ惜しみなく手渡そうとしています。

「地方には、自分のやりたいことを尖らせて挑戦できる、圧倒的に自由な環境があります。だからこそ、私たちが試行錯誤の末にたどり着いた、食材との向き合い方や表現のプロセスを共有したい。自ら育み、表現する料理人が増えれば、この土地はもっと面白くなります。地域って、自分たちの手でいくらでも魅力的に変えていける場所なんですよね」(慎吾さん)

二人によって生みだされ続ける最高の一皿は、山口という土地を舞台に、これからも新しい「豊かさ」の形を世界へと発信し続けていきます。

Profile

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mitsuwa

ガストロノミーレストラン

2019年 山口県山口市に開業。三和夫婦の営むガストロノミーレストラン。シェフの慎吾さんは1987年生まれ、大阪府出身。リッツカールトン大阪を経て、単身渡仏。フランスの1つ星レストランSOLA、アメリカの2つ星レストラン KAJITSUで料理人としての研鑽を積む。豊かな海と大地に囲まれた山口の最高食材を使ったイノベーディブな料理を生み出している。靖子さんは自家製パン、サーブを担当。1986年生まれ、山口県山口市出身。ホテルオークラ神戸、3人の出産、パン屋を経て、現在に至る。自家農園や、狩猟をはじめ、食材の自給調達の幅を広げる活動も行う他、DIYやインテリアも担い、リラックスできるmitsuwaの空間づくりを主導している。

PEOPLE 山口を伝える人々。